【Member's Interview 第16回】好きなものを共有できることが一番の喜び
- 佐藤雅史さん(団体歴18年 カポエイラ・ヘジョナル・ジャパン 東京本部指導者)
- 2016年9月11日
- 読了時間: 15分

【Member's Interview】では、カポエイラ・ヘジョナル・ジャパンのメンバーをご紹介しています。
1998年11月からカポエイラを始め、2016年で18年目を迎えるという佐藤雅史さん。東京本部で水曜クラスの指導者を務める佐藤さんは一見すると強面ですが、「ウォンさん」という通称で生徒から親しまれ、尊敬されている先生です。(通称の由来はご本人に直接確認してみてください)カポエイラを始めたきっかけや、ジークンドーの指導者としての一面や、カポエイラでの指導者としての目標などのお話を伺いました。
-----------
―――カポエイラを始めたきっかけを教えていただけますか。
●佐藤雅史さん(以下、ウォンさん):始めたきっかけは、高校生の頃に「オンリー・ザス・トロング」という映画を見たことかな。最初の場面がかなり印象に残っています。主人公とメストレ・アメインがちゃんとカポエイラをしているから。あれを見ているとバスで合宿に行きたくなるでしょう?
―――いや、私はならなかったですね(笑)ジークンドーはカポエイラよりも1年早く始められたということなので、19年目なんですね。
●ウォンさん:そうですね。入門するとき先生に年齢を聞かれて20歳ですと答えたことを覚えています。休んでいた時期もあるんですが、来年で20年目だと思うと、ちょっと恐ろしいですね。
―――それだけ継続できることが素晴らしいです。ジークンドーも指導者として活動していらっしゃいますが、そちらは何年くらい?
●ウォンさん:教え始めてからは、3年ほどですかね。カポエイラは5年になりますから、指導歴としては、カポエイラの方が長くなりまね。
―――異なる格闘技を指導していらっしゃるわけですが、教え方で気をつけている点はありますか。
●ウォンさん:競技の違いというよりも、一人ひとりのモチベーションの違いを理解して指導するように気をつけています。
―――それはかなり高度なレベルですね。
●ウォンさん:教え始めたばかりの頃は教える側のエゴというか、こういうことを教えたい、というイメージばかりが先行していたことがありました。でもそうすると、指導があまり上手くいかなかったりするんですよね。レッスンが盛り上がらない、というか、ちょっとこれは違うなと感じて。そこから生徒さんとしっかりと向き合うことを意識するようになりました。
―――そういう風に感じられたのは、カポエイラもジークンドーも?
●ウォンさん:どちらもすごくあります。
―――私は指導者ではないので、そのあたりの感覚がよく分からないのです。いま「指導者のエゴ」と言われましたが、それはプランとは異なるのでしょうか。1~2時間のレッスン時間で指導者に方向性を示してもらわないと教えてもらう立場の人は迷ってしまう気がします。参加している生徒のレベルと合わないということでしょうか。
●ウォンさん:色々なケースがありますが、そのときにその人に必要な要素を入れ込む必要があるんです。正直いうと、自分はレッスンの内容を半分くらいしか決めていかないんですよ。あんまりガッツリ決めていくよりも、わりとフレキシブルに変えた方が上手くいくことが多いので。

―――もう少し具体的に聴きたいです。半分決めるというのは、どのような感じですか。例えば、この技は今日は絶対入れていこうとか、このルーティンは入れていこうとか。
●ウォンさん:特に基本の動きは決めないことが多いです。その時に参加している生徒の顔をみて決めていく感じ。その時期の流行りもありますよね。ただ、カポエイラは、練習することがたくさんあるじゃないですか。楽器も歌もありますよね。特に歌は流行がハッキリしていますよね。動きでも蹴りだったり、床の動きだったり、特定の技だったりが流行っている感じがありますよね。ただ、日常の稽古はワークショップではないので、手を変え品を変えているようで、いかに同じ事を何回も退屈させずこなしていくか、という事を大事にしたいと考えています。
―――それは教えてもらう側からもそうしていただきたいところではあります。一回習っただけだと覚えられないですし、ましてや週一回だけ参加している人は、さらに条件が厳しいですよね。他の先生と話したときも、週一回の人は先週やったことを覚えていないでしょう、という話題になりました。
●ウォンさん:これが、教える側のエゴという話とつながるのですが、先生としては先に進みたい、もっと色々と教えたいと思ってしまうんですよね。そういう気持ちをグッと抑えてまた同じことを教える、というね。
―――私のような生徒側としてもついて行きたい気持ちはもちろんあるのですが。。。
●ウォンさん:また習う側も様々じゃないですか。同じ事を教えて欲しいという方もいれば「それ先週やったよ」という人もいる。
―――確かに生徒さんの身体能力によっても異なってきます。別の先生から聞いた話ですが、ものすごくできる人が普通のクラスに入っている場合にどのようにクラス運営をするのか悩む、苦労するという話を聞いたことがありました。
●ウォンさん:生徒さん側のモチベーションも違いますよね。能力があって自分でもそれを自覚していてドンドン進んで下さい、もっと覚えたいですという人と、そうでもない人っているじゃないですか、ギラギラしていない、というか。とにかく生徒さんをよく見てちゃんとお話をすることも大切にしています。
―――カポエイラ18年、ジークンドーを19年とどちらも長く続けてきて、やっていて良かったなと思うことはありますか。
●ウォンさん:色々な人たちと知り合えること、これに尽きるんじゃないですかね。これは、ジークンドーの教室での話ですが、生徒に中学生がいて、その親御さんが自分と同年代なんですが、指導している自分に対してものすごく敬意を払ってくださって、ありがたいなぁと。でもそこまでへりくだらなくてもいいのにな、とも思いますが。
―――それは、ウォンさんの動きを見ていたら、敬意を払わずにはいられないでしょう。
●ウォンさん:だから、それに見合うだけの指導者でいなくてはならないな、と思います。
―――もうすでに見合うだけの実力はあるのではないかと。
●ウォンさん:だとしたら嬉しいですが、謙虚さも忘れたくないですから、プレッシャーもありますよね。どっちが先なのか分からないけどね。

―――ああ、なるほどですね。ちょっとレベルが違いますけど、「昇段する必要がありますか?」と私がさやか先生に質問したことがあるんです。私はまだ下手で上がれるレベルじゃないです、動きもちゃんとできないので資格がないと思うと言ったら、帯が上がったら、ついてくるんですよ、そこに合わせるために自分がさらに努力をするようになるから、といわれたことがあって、なるほどと思ったのですが。
●ウォンさん:まさにその通りだと思います。帯に合わせて成長する、指導者としての肩書きに合うように成長する。環境や立場が人の能力を伸ばすというのは、仕事でも有りますよね。
―――先日お聞きして非常に面白かったので基礎体力のお話もこの機会にあらためて詳しく伺いたいです。「レッスン」「プラクティス」「トレーニング」がそれぞれ異なるというお話です。
●ウォンさん:この考え方は、アメリカに居るジークンドーの師匠から習った事で、日本語だと全部「練習」に置き換わってしまいそうですが、「レッスン」は「知識を学ぶこと」です。だから極端な話、座学でもOK。「プラクティス」は技術的なところ。同じ動きを繰り返して記憶に定着させていくことを言います。技だったら力を抜いてゆっくりとフォームを調整していく、楽器だったらゆっくりと一つ一つの音を丁寧に出したりする練習ですかね。「トレーニング」とは、プラクティスを実際に使えるものにしていく段階です。また、筋トレなどの身体作りもこれに含みます。技であれば実際の速度、強度で練習していく段階、スポーツとしてイメージしやすい早い動きで息も上がって汗もたくさんかいていくような状態、楽器だったら実際の早いリズムで演奏している状態ですね。実際の稽古の中では3つの要素は別個に分かれて行われる訳ではなく、「プラクティス」が他の二つの中間に有るイメージでしょうか。説明を聞きながらもゆっくり動きを確認したり、逆に早い動きの練習でつまづいたら、ゆっくりと動いてイメージを作り直したりする事有りますよね?自分の先生がよく使う言葉で「不可逆性」というのがあるんです。「レッスン」「プラクティス」で磨いたものは不可逆性を持っていて忘れにくい。例えば、お箸を一年間使わなかったとしても、そのあとに再度お箸を使ったら使えるでしょう。自転車もたぶん1年ぶりに乗っても、ちゃんと走れる。あまり衰えにくい。逆に「トレーニング」は、そうはいきません。一年間、何の運動もしなかったら、確実に筋肉が落ちて基礎体力も落ちるから動けなくなります。例えば、宙返りをできる人が一年間なにもしなかったととしたら、飛べなくなります。
―――宙返りはできなくなりますか。
●ウォンさん:なるでしょうね。方法を忘れるわけではなく、筋力が落ちて物理的にできなくなる可能性が高い。やり方は分かっているのに身体が動かないんです。ではそういう人がまた宙返りをしたいと思った時には、少しまた身体を動かして筋力を戻すところから始めなければいけません。楽器も長い間弾いていないと手が動かなくなりますよね?そういうことが「可逆性」があるか、ないか、ということです。このあたりを区別して練習をしないとなかなか上達は難しいですね。
―――やみくもにやってもダメだ、ということでしょうか。
●ウォンさん:そうですね。やはり練習は考えて積み上げていく必要があります。かといって、しっかりと知識を身につけて、技も反復練習をしていれば、それだけでいいのか?というと、それでは使えるところまで行けない。やはり少しハードに積み上げる部分もないと本当に技が使えるようにはならなりません。
―――もう一度確認させてください。「レッスン」「プラクティス」の部分は、自分で行うことが可能で、「トレーニング」の部分が先生に教わる必要があるということでしょうか。
●ウォンさん:どちらかと言えば逆ですね。「レッスン」「プラクティス」の部分で先生から、しっかりと知識や方法を学ばなければなりません。つまり通常、週に一度お稽古に来ている生徒さんは、知識は身につけられる、技術もその時に学べる、ただ、もっと上手くなりたいと思ったら自分でトレーニングをする必要がある、ということですね。もちろん、身体作りも含めトレーニングの方法も先生から習うのが良いと思います。通常の毎週の稽古では、他の二つを経由しないで「トレーニング」の部分の比重が高くなりすぎると良くない結果に終わることが多い、というのが自分の経験ですね。。
―――例えば、それはどういう状況でしょうか。歌の練習ばかりするとか?
●ウォンさん:いえ、歌に絞った練習という事で有れは悪くないです。ざっくり言えば、基礎がしっかり出来ていない状態の人を早い動きのタフな練習に放り込んでも効果が薄い、場合によっては動きがガタガタのままで段階が進んで行ってしまうと、修正に時間が掛かったりすると思うんです。ただ、モチベーションは人それぞれなので…身体が出来ていてとにかく技をたくさん知りたい人、一つの事をじっくりやりたい人、それぞれ一週間の中で時間を作って来ている訳ですから、出来る限りその人に合ったオーダーを考えるようにしています。カポエイラでもジークンドーでも、他の人より明らかに覚えが早く、知識を落とさずに吸収していく人に共通しているのは素直で先生の言ったことをちゃんと聞いていて、かつ自分でも努力を重ねている、つまりトレーニングしている人ですね。例えば一度のレッスン5個歌を紹介して、次回に全部覚えていたら、それは明らかに自分で練習している人ですよね?ただ、指導者の立場としては、そういう人が生まれるのを期待してレッスンで1度にがーーっと知識を拡げることが良いのか、と考えた場合に、自分は、テーマを絞ってレッスンした方が安定して成果がでるのではないかと考えています。
―――ウォンさんが考える「安定して成果がでる」という状況は、「ウォンさんのレッスンを受けた人が着実にステップアップしていく」ということですか。
●ウォンさん:そういうことです。自分の生徒さんたちには、ちゃんと何かの形で成果を上げてほしいですから。
―――ウォンさんはカポエイラもジークンドーも15年以上継続していますが、なかなか継続できずにやめちゃう人もいますよね。ウォンさんの続ける秘訣みたいなものがあれば教えていただきたいです。
●ウォンさん:やっぱりできない時は誰にでも訪れると思うんですよ。それでテンションを落とさないで欲しいですね。落とさないというのはちょっと違うな。別に気にする必要がない、というか。間が空くと練習に参加しづらくなって、結局辞めちゃうというパターンが一番多いんですが、そんなの全く気にする必要がないんですよ。先生としては、長い間休んでいたとしても生徒さんが来てくれたら単純にうれしい。ジークンドーで、家庭もある方で毎回練習に参加できないことがこちらも分かっている生徒さんがいるのです。でも、ちょっと休む度にすごく俺に怒られるかのように「またお休みしてしまって本当に申し訳ありません」と畏まって謝られるんですよ。かえってこちらが恐縮してしまうくらい。一度も怒ったことがないのに。逆に自分自身は、長い間ジークンドーを休んでいても「すいません、来ちゃいました」みたいなノリで練習に参加していた時期がありました。その時の先生がどう思っていたかは分かりませんが(笑)
―――それはメンタル的なものですよね。
●ウォンさん:結局、あまり真面目すぎるのも問題なんですよ。できない時はできないという割り切りも必要。自分が19年、20年継続しているといっても、ずっと同じペースで毎週練習に参加していたかというと、全くそういうことはないんです。やっぱりすごく集中する時期と、間が空く時期というのはありました。月に数回しか練習に参加できないこともありましたし。怪我をしたときには休む勇気も必要です。
―――なんか行きづらいなと思うかもしれないけど、先生は気にしていないから、練習に参加したいと思ったら遠慮せずブランクも気にせず来て欲しい、ということですね。最後に今後の目標についてお聞かせください。さやか先生のようなレッスンができるといいなという話を一度お聞きました。 ●ウォンさん:キャラクターの問題だと思いますが、彼女のリーダーシップにはちょっと憧れます。最終的には、そういうリーダーシップ論になっていくのかな。目標としては、自分自身が納得できるリーダーシップが発揮できるようになりたいなと。長くやっていると個人の技量うんぬんじゃないんですよ。先生クラスの人は技量はあって、当たり前なんで。その先の人間性が重要になってくると思うから。
――――人間性が重要というお話は先ほどもありましたね。 ●ウォンさん:人が集まって行うスポーツである以上は絶対に必要な要素ですから。この20年ちかくでカポエイラ業界はかなり成熟したんじゃないかと。団体も増えて我々と同年代のカポエイラ第二世代からも優れたリーダーがたくさん生まれています。カポエイラは集団競技でも有るので、そのせいかジークンドーよりも早い速度で広まって行った感じが有りますね。
―――そうなんですね。ジークンドーの方が歴史が古いのに。 ●ウォンさん:いや、ジークンドーの歴史はカポエイラよりもまだ浅いですね。1970年代に亡くなった方が作った物なので。カポエイラもそうですが、こういう公的な競技が無い民間の無形文化みたいな物って、そのコミュニティのリーダーの人間性に依存する部分が大きいですよね。 これは極端な話ですけど、過去に所属したとある武道のサークルでとても技量がある指導者の人がいたのですが、なんというか人間性の幼い人で、やる気があって集まった人達を他人には理解しにくい理由で片端からやめさせいき、残っていた人もこりゃ潮時ですね…という感じで去り、事実上コミュニティが無くなってしまった事があったりもしました。当時は苦労しましたが、現在では大いなる反面教師だったとして糧に出来たと思っていますが。。。

―――成長過程としては、そうした経験も必要だということでしょうか。 ●ウォンさん:やはり技量を持っているのは当然として、そこから先が重要ということです。それ以外の人間性となると、さらに難しいです。技術がものすごくずば抜けて上手くて、カポエイラの動きも楽器も歌も、めちゃくちゃ凄かったとしても、性格がすば抜けて悪かったら、やはり生徒さんはついてこないでしょう。
―――そんなことって、成り立ちますか? ●ウォンさん:意外に近くにいるとけっこう分からない事が有ると思うんです。その人が言うことを素直に聞いちゃったり。特に日本人は自罰的というか、自分を責めやすい人が多い気がします。先生が怒るのは自分たちが至らないせいです、みたいな。でも、いやいや、ちょっと待って。この先生、客観的にみて、絶対におかしいから、というような状況ね。
―――ありえますね、それは。生徒さんも若かったりすると人生経験が少ないから分からなかったりしますよね。 ●ウォンさん:結局、そういうことが分からないと、生徒さんは出口のない迷路で苦しんで結局やめちゃったりしてたんですよね。そういう本筋じゃないところで、止めちゃうのは本当にもったいないですね。言ってみると、趣味の世界でパワーハラスメント(権力を利用した嫌がらせ)を受けるみたいな感じに近いかも。。
―――確かにプライベートの時間を楽しく充実して過ごしたいと思っている人はそういう状況は耐えられませんね。 ●ウォンさん:ビジネスではないから、なおさら本質的な性格が透けて見えやすいのかもしれません。ビジネスでやるところまで到達している方もいるとは思いますが。
―――ウォンさんは将来的にビジネス的なところに近づけようという希望はありますか。 ●ウォンさん:ないわけではありませんが、いま身の回りでやっている範囲では、カポエイラもジークンドーもそういう感じではないですね。はっきり言ってお金は儲からないですし。
―――だとするとウォンさんがカポエイラやジークンドーを教えている目的や目標は、どのようなものになりますか。 ●ウォンさん:単純に、自分が好きなものに価値を見出して、色々な人と出会えるのが嬉しいというところですかね。共有できる喜びしかないと思います。逆に言えば、どんなにお金を持っていても、これがない人は、あまり幸せとは言えないんじゃないかな。
―――ありがとうございました。
取材日:2016年1月11日 取材/文責:芝崎正恵
カポエイラヘジョナルジャパン大宮・川口では、新メンバーを募集しています。
◆◆まずは気軽に体験レッスン◆◆
1.「体験レッスン・見学のお申し込み」黄色のボタンをクリック
2.お申し込みフォームに必要事項を記入
3.送信ボタンを押す
4.申し込み完了